第6回 監督と指導者論(Text by 鈴木哲夫)
このコラムもすっかりご無沙汰してしまいました(誰か書いてくれぇ~(笑)。ほぼ1年ぶりのコラムとなる訳ですが、この1年を振り返るとやはりW杯が一番のイベントだったと思います。 で、今回はその「W杯」を観戦していて感じたことについて少し書かせてもらうことにします。W杯開催までは長かったような気がしますが、始まってみるとあっと言う間の1ヶ月でした。当初想定していたより多くの試合を生で見る機会に恵まれ、個人的には充実した日々であったと思います。(仕事の調整が大変ではありましたが(笑)) 世の中はすでにW杯の事は「過去」のこととしてどんどん先に進んでおりますし、新しい日本代表監督の初采配の試合も行われました。ただ、私としては今回の W杯での結果(日本がベスト16、韓国がベスト4という)について、今一度きちっと整理しておきたいと思うのです。 掲示板にも書き込んだのですが、この結果の差について、一番大きな要因は私は「監督」であったと思うのです。トルシエとヒディングの何が違っていたのか?そして我々少年の指導者にはそこから何を学ばなければならないのか?・・・。
NHKで「プロジェクトX」というドキュメンタリーをシリーズで放映していたのをご覧になった方も多いと思います。青函トンネルや東京タワーの建築等、極 めて困難なプロジェクトを成功に導いたリーダー達の人物像を追ったものだったのですが、彼ら優れたリーダーに共通しているのは決して弱音を吐かずに最後ま でプロジェクトをやり遂げる強い意志でメンバーを引っ張って行く姿でした。 組織論やリーダー論において良く言われる話であり、今更という類の話ではあるのですが、優れたリーダーの条件としてこの「強い意志」が絶対に必要なのです。 組織のトップやリーダーが「弱音」や「諦め」の言葉を吐いた時点で、その組織の負けは決定してしまう、これは別にサッカーに限った事ではなく、どんな組織 でもあり得る真実だと思うのです。で、このリーダーの差がそのままW杯の日本と韓国の差になってしまったのだと思うのです。 決勝トーナメント出場が決まって、トルシエは言いました。「目標は達成した。後はおまけとして楽しんでもらいたい」 一方ヒディングは、「このチームはまだまだ上を狙える。これからが本番だ」。・・・正確ではありませんが、このような発言をしていたのです。 選手に与える影響を考えたら、それぞれのチームの結果は火を見るより明らかです。そして日本はベスト16止まりで、韓国はベスト4まで勝ち残りまし た。・・・W杯が終わり、いろいろな人がいろいろな総括をしていますが、私はこの2002年日韓W杯は、「トルシエだからベスト16まで進めたが、トルシ エだったからベスト16以上に進めなかった大会である」と評価します。
この、リーダーの差でチームの勝ち負けが大きく左右される、という話には私にも悔しい思い出があります。 まだウィングスが発足する前、私は某チームの6年生を担当しておりました。当時は私もまだまだ勉強不足で、試合中も大声で子供たちに指示を与えるような指 導をしていました。松村杯の決勝トーナメント2回戦だったと思いますが、ちょうどその前日に会社の送別会か何かで、朝まで酒を飲んで、ほとんど寝ずに試合 に臨むことになってしまったのです。 二日酔いというより、まだ酔っ払っているといったほうが良い状態で試合に臨んだものですから、声を出すと吐きそうになって、試合前の子供たちににもろくな 指示を与えられず、試合中にもまったく声を出すことが出来ません。普段なら、試合前から大声で子供たちを鼓舞し、試合中も大声で指示している指導者がまっ たく何も言わないのですから、子供たちも当然戸惑います。 先取点を取られ、なかなか追いつけず、どうしたら良いのか分からなくなって私の方を見ている子供たちに何の指示も出せずにその試合は負けてしまいました。 指導者の指示がなければ動けない、というのが根本的な問題ではあるのですが、指導者が自信を失った(ように見える)発言や態度を取ると、それは必ず選手た ちにも伝わります。選手たちの力が同等であった場合、試合を決める要素のひとつにこの「リーダーの優劣」があることは間違いありません。 負けなくても良い試合を負けてしまい、この時の子供たちには本当に悪いことをしたと今でも反省している次第です。 子供たちを試合に送り出す前、試合中、ハーフタイム。どんな場面であっても、どんな相手であっても、弱気な態度や慢心した態度を指導者は見せてはいけませ ん。どう考えても負ける、実力が違い過ぎる、という場面もあるでしょう。そんな時でも子供たちに自信を持たせ、自分たちのベストをつくせば結果(それは例 えば、1点でも取る、とか、後半は1点も取られない、ということでも良いのです)ができることを信じさせるべきなのです。 また、例えば「決勝トーナメント進出」が目標であったとしても、それを達成して指導者が満足していてはいけません。ヒディング流に、「もっともっと上を狙えるんだ!」と選手達に高い目標と自信とモチベーションを与えるべきなのです。 「指導者が試合や大会の途中で諦めたり、満足したりしてはいけない。」 トルシエが日本代表を率いていた4年間で私が彼から教わったことはそれだけ、といったら言い過ぎでしょうか(笑)。 「勝ちつづける意識」という点においてはトルシエよりはるかに優れた人物が後を継ぎました。それだけで「勝てる」ほど甘い世界ではありませんが(^_^;、勝負に対峙するときのあるべき指導者像をジーコには期待したいと思います。

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